窓の外は雨が降っているのか、手元がほの暗く何を書いているのか、自分でもよく分からない。
ぼやけた文字列が、歪んで揺れている。
水の中のよう。或いは、夢の中のよう。
くぐもった水音の反響するアキの鼓膜に、誰かの声が囁きを落とす。
酒焼けた喉からこぼれる、しゃがれた低音。
すぐ傍で、岸辺が悪魔について訥々と語っている。
「……全ての悪魔は、恐怖を背負ってやってくる。恐怖には、幾つか種類がある。形あるもの、形のないもの。人間の命をおびやかす凶器、人間の精神をおびやかす狂気……」
アキは顔を上げた。
キョウキ、と口の中で言葉を転がす。
岸辺の黒く深い瞳が、アキを覗き込んでいる。
師の、あらゆる感情のさざなみを沈み込ませた無機質な声が、その時ばかりは酷くアキの心を揺さぶった。
「狂気の類の悪魔にはくれぐれも気を付けろ。おまえは特に、…………」
―――あの時、岸辺は何と言ったのだったか。
幼き日の、短くも濃厚だった師との日々を今になって、なぜ思い出しているのだろう。
雨の匂いか、はたまた泥寧のようなこの眠気のせいだろうか?
アキは、うとうとと微睡みながら、ほの暗く湿った世界を見つめている。
足先がぷらぷらと心もとなく浮いていて、誰かに抱き上げられて運ばれているような感覚があった。
記憶の中の己をとうに追い越し、アキは既に成人した大人の男であるというのに、一体誰に運ばれているというのだ。
(……デンジ?)
浮かんだ名前を、心のなかでなぞってみる。
アキにとって特別な名前となった三文字は、しかし片腕を失ったアキをこんな風に抱きはしない。
奔放な振る舞いとは裏腹に、アキの矜持を慎重に踏みつけぬように距離をはかる敏さが、デンジにはある。月日を共に重ねて、そう知った。
だから、こんな無遠慮に、女のように、愛おしむように、デンジがアキを抱くはずがない。
(だれ、だ………)
不可思議な恐怖にぞわりと背中が粟立って、アキはままならない体を揺すり立てた。
微細な身じろぎを感じ取ったのか、アキを運ぶ足取りが一瞬、止まる。
だが、それだけだった。
強烈な眠気にまぶたが重くなってゆく。
再び歩き出したその振動に身をゆだねてしまえば、もう二度と目覚めないのではないかという予感がある。
それなのに、意識はゆっくりと遠ざかり、瞼の裏に浮かぶ景色は滲んで溶けてゆく。
水の中に、夢の中に沈んでいく。
アキの耳の中には、近づいては遠ざかる誰かの嬉しげな唄が響いている。
雨音が強くなる。
ざあざあと降る水の音。
血潮の音に似ている。
アキは、目を閉じた。
◆
意識が浮上して、最初にアキが感知したのは、湿り気だった。
鼻先をくすぐる空気に混じる水の気配に、自分がどこにいるのかを思い出そうとして――そうしてようやく、全身を支配する違和感と共に、覚醒する。
痛みによってではなく、ただ純粋に体が動かなかった。
仰向けに横たわっているらしい。
天井から垂れ下がった鎖のようなものは途中で二本に分かれ、片方はアキの首に、もう片方はアキの残った右腕の手首に巻き付いている。
両足はどうやら短い鎖か錠で拘束されているらしく、殆ど開けない状態で足首同士が繋がれていた。
背中で感じるのは、安いスプリングのベッドマットだろうか。
シーツの感触はなく、アキは左右に目線を走らせて、この奇妙な部屋の様子を窺った。
四方の壁は全てコンクリートの打ちっぱなしになっていて、明かり取りの一つも見当たらない。
かろうじて光を感じるのは、部屋の片隅にぽつんと置かれた古びたオイルランプだけだった。
光源としての頼りなさは否めず、それは室内全体を照らし出すほどのものではなく、余計に薄暗い空間を作り出しているだけだった。
壁際に置かれた棚の上には用途不明の小物が雑多に置かれているが、そこに人の生活の痕跡はない。
ただ、無造作に置かれた黒いゴミ箱の中は、なぜか異様なほどのティッシュペーパーが小汚く丸められて、山を為していた。
どろりとした不快感が、アキの胃の底に落ちてくる。
人間の存在を感じれば、その意図を考えざるを得ない。
報復か、人質か。
価値あるものとみなされているか、無価値なものといたぶられるか。
何にせよ、ろくな目には合わないだろう。
悪辣な想像に吐き気が込み上げてきて、アキは焼け付くような胃液の味を飲み下した。
途端に、今頃になって目を覚まし始めたアキの五感が、舌に残る粘ついた唾液の不快さを訴え始める。
無意識に口端を舐めて、アキは慄然とした。
いや、これは……唾液の味、ではない。
アキの目が無意識に、山となったゴミ箱の中で丸まっているティッシュを捉える。
呼吸が荒くなって、アキは苦しげにあえいだ。
フラッシュバックする、鼻をつく精液のどろどろとした臭い。鼓膜に粘り付いている、男の声。
(おくち、開けて……♡上手だよ、上手だね……おいしいのたっぷり飲ませてあげるからね……♡)
「ッ、おぇ、っ……づ、っ、ォ、ふ…っ…」
こみ上げる嘔吐感を堪えきれず、アキは横向いたまま胃の中のものを吐き出していた。
喉を焼く酸の感覚に、肺に穴でも空いたかのように息が吸えなくなって、咳き込む。
苦しい。気持ち悪い。
繋がれた両足を必死で胸に寄せて胎児のように丸まりながら、アキは吐瀉したものを呆然と見つめる。
汚れた口元を拭うこともできず、たった今理解してしまった見えざる拘束者の真の目的――性欲の愛玩に、戦慄する。
その容姿の端麗さから、とかく少年と青年の狭間の頃は性的な視線を集めがちだったアキにとって、全く身に覚えのない感覚ではない。
だが、ここまで露骨に欲望の対象とされたことはないし、何より、そんなことをされる謂れもない。
この身は悪魔と戦うために捧げたものであって、それ以外の目的で穢されることなどあってはならない――筈だ。
混乱しきった思考のまま、アキは力なく頭を振って、なんとか正気を保とうとする。
落ち着け、冷静になれ。まずはこの現状を打破することだけを考えろ。
吐いた口元をむき出しの肩で拭って、身をよじる。
少しずつ、体の向きを右に左に変えながら、繋がれた首輪の鎖に半身を吊るされる苦しさを堪えて、起き上がる。
長い時間をかけて、アキはようやくベッドマットの上に座り込んだ。
呼吸が落ち着いてくると、今度は鈍痛を訴える腹部に意識が向く。
裸の腹には、見覚えのない紫色の大きなアザが浮き上がっていて、心臓の鼓動に合わせて脈打つようにどくりと疼いていた。
余程の膂力で殴られた筈だが、記憶の紙束を水中へ落としてきたように、アキの意識には霞がかかっている。
(今は、とにかく……)
蓋をした記憶を探るより、逃げることだけを考えなければ。
アキは薄暗い天井に目を向けた。
耳障りにギィギィと揺れている鎖は、よくよく目を凝らせば錆びているようにも見える。
腐敗した金属特有の、まだらな擦れが入った鎖の大元を、アキは一心不乱に揺すぶった。
じゃらん、じゃらんと重たい音を立てながら、鎖が上下に激しく揺さぶられる。
悲鳴のような金属音が鳴り響き、パラパラと細かな粒子になって鉄錆の欠片が舞い落ちる。
焦燥がアキの胸を苦しめる。
早く、早く、早く―――。
ガチャリ、と金属の砕ける音がした。
ついにアキを拘束していた鎖が壊れて彼に自由をもたらし、
アキはめでたく無事、あたたかな家に―――
帰れるわけがなかった。
「起きてたんだね、元気そうでよかった」
声は、暗がりから聞こえた。
咄嗟に体を固くしたアキが、その目に映したのは、オイルランプの頼りない光に照らされた男の姿だった。
年の頃は、アキよりも幾分上だろうか。
鍛え上げたアキのシルエットとは比べようもないほど、貧弱で平々凡々とした体躯。
同業者ではないだろう。近所の人間の記憶とも一致しない。
知らない。見たこともない。
でも、声は知っている。
アキに欲望をねじ込んで、身勝手に辱めた、男の声だった。
「……これ、解い、てくれ」
解け、と言いたいところを寸出のところで飲み込んで、アキは努めて冷静に要求を口にした。
高圧的な態度で刺激して、ことを長引かせたくはなかった。相手は丸腰に見えるが、体格差を鑑みても圧倒的に不利なのは自分の方だ。
「警察にも報告しない。被害届が出ない限り、まだ罪は取り消せる」
言い含めるように言葉を選びながら、アキは男の入ってきた扉に目を凝らした。暗がりで視認できなかったが、部屋の隅にはコンクリートの壁と同色の扉がついていた。距離にして、せいぜい十五歩。欲しい隙は、三秒でいい。
落ち着け。我慢しろ。怒るな。
「……?どうして?」
男は不思議そうに首を傾げた。
その様子は本当に、何故アキに怒りをぶつけられているのかわからないという風だった。
「俺は、アキ君のことが好きだからこうしたんだよ……アキ君にも俺のことを好きになって欲しい。だから、こうやって一緒にいる時間を増やしてるんじゃないか。……ああ、もしかして寂しかったのかな?ごめんね、少し買い物に出てただけなんだ。これからはずっと一緒だよ。そうだ、お風呂に入ろうか。汗をいっぱい掻いただろう。綺麗にしてあげるよ。それからご飯を食べ―――「黙れ!」
数秒前の己を裏切って、アキは思わず叫んでいた。
男が何を言っているのか分からなかった。分かりたくもなかった。
嫌悪に苛まれながら、アキは隠し立てようもない敵意を込めて睨みつける。
その瞳の奥にある感情を読み取ったのか、男の表情がみるみると曇っていく。
眉根を寄せて哀しげに目を伏せると、ゆっくりとアキの方に歩み寄ってくる。
ひた、ひた、と素足が床を踏む微かな音が響いた。
男は裸足だった。
身に付けているシャツとスラックスの取り合わせもまるで没個性的で、すれ違う誰もがまさか、家の中に一介のデビルハンターを監禁しているとは想像だにしないだろう。
「近寄るな……ッ」
ベッドの上で、少しでも距離を取ろうと両足を引き寄せて後ずさったアキの目の前で、唐突に男が立ち止まった。
アキは息を呑んで身構えたが、次の瞬間、予想外の衝撃に襲われる。
ベッドの上に乗り上がった男に、アキは力任せに押し倒された。
スプリングが軋む音を立てて、二人分の体重を受け止めたマットレスが沈む。
「ああ、やっぱり寝てる間にすごく汗かいたんだね…アキ君の匂い、濃くなってる……♡ 耳の後ろ、髪の毛で蒸れて……ッ……はぁ……いい匂…い……っ♡」
男の手が、アキの髪を掻き分けて首輪を嵌められたうなじに触れる。そのまま鼻先を擦り付けられて、アキは総毛立った。
鎖に繋がれたままの腕はろくに動かないものの、それでもアキは渾身の力を込めて暴れた。
無我夢中で、何度も腕を振り回しては鎖を引っ張る。太腿に乗られて動かせない足を羽の落ちた虫のようにばたつかせる。
「やめろ! 触るなこの変態野郎!! 離れろ!!」
唾を飛ばしてアキは罵声を浴びせたが、嫌がるほどに歪んだ欲望ヘ油を注がれるのか、男の息遣いは階段を駆け上がるように荒くなっていく。
「ハァ……ハァ……♡ ん……♡」
もがくアキの髪の隙間に差し込まれた指先が、地肌をまさぐりながら後頭部を撫で回した。
今の今まで全く意識していなかった頭皮の汗ばみが、急にぶわりと自覚されて熱くなる。
嫌で嫌で仕方ないのに、耳の輪郭を確かめるように爪先でなぞられれば、歯を食いしばって耐えていたアキの口から、ついには小さな悲鳴が漏れた。
男の唇が、耳元に触れた。
耳の穴に舌が差し込まれ、ぴちゃりと湿った水音が響く。
背筋を走る悪寒に、アキは全身を強ばらせて身を捩った。
「ぢゅ…ぅ、んちゅ……♡ ハァ…んむ…♡ アキ君の耳たぶ、やあらかいね……はむ……ん…ん〜…っ♡」
熱い吐息と濡れた音が、アキの鼓膜に直接注ぎ込まれる。
脳髄を直接舐められるような不快感に、アキは顔を歪めて悶えた。
必死で顎を仰け反らせながら「気持ち悪い、糞……!」と毒づく。
明らかに男は興奮していて、その証拠に、アキの上に乗せられた股間はズボン越しでもはっきりとわかるほど張り詰めていた。濃い色のスラックスの中心に、染みが出来ているのが薄暗い中でも見て取れる。
男が自分に欲情しているという光景、浅ましく押し付けられる他人の感触は、拘束されている現状を知った瞬間よりも数段大きなショックでもって、アキの気持ちを打ちのめしていた。
醜悪な欲でまさぐられる全身。荒い呼吸でむさぼられる皮膚。暴かれようとしている自分の体が、とてつもなく気持ち悪い――。
「お、ッ、ぅっェ……げ、ぇ……!!」
喉奥からせり上がってきたものを堪えきれずに、アキは小刻みに震えながら必死で横を向いて、再び吐瀉した。もう胃液の饐えた臭いしか吐き出せず、酸っぱい味が口の中に広がる。
「は……はぁ、……ぅ、う」
ぜぇぜぇと肩を揺らすアキを、男は吐物をぶちまけられる直前でかわしていた。
馬乗りになったまま、じっと食い入るようにアキを見下ろしている。
数秒の沈黙を挟んで、男の指がアキの首輪をなぞった。そのまま両手で喉仏の辺りをぐう、と押し込まれる。
「なにッ……す、るん……ゥ」
息苦しさに歪めた顔を覗き込まれ、アキは男がもはや獣のように正気を飛ばした瞳で己を見つめていることに、慄然とした。
男の湿った舌が、今にもよだれを垂らしそうな勢いでうごめきながら、意味不明な言葉を浴びせてくる。
「ハァー♡ ハァー♡……アキ君が吐くときの顔、ベロがちょっと出てて、えっちだった……♡♡ 声も、濁ってて、汚くて……かわいい」
もはや隠し立てする気もない、べとべとに濡れたスラックスの股間を執拗にアキの下半身にこすり付けながら、男の手と舌が辛抱堪らないとばかりにアキの全身を撫で回す。
胸、腰、臍の上、脇の下。
「ッ……ぃ、」
嫌だ、と言えば、余計に喜ばせるとわかっている。そういう類の狂気だと頭では理解している。
ひたすら耐えて、耐えて、早く飽きてくれればそれでいいのだと言い聞かせて。―――なのに。
「ここも……ねえ、まあるく、閉じて、可愛いね…♡ アキ君が、完璧な造形美だったアキ君が、いつの間にかここを無くしているのを知って、俺は天に感謝したんだ……だってこれで、アキ君はデビルハンターなんて野蛮な仕事を辞めて、悪魔のガキ共の面倒からも解放されて、俺と二人きりになれるんだから……」
男の手が、アキの潰れた腕の名残をなぞり、揉み込むように撫で回す。
すさまじい嫌悪に、アキは今宵一番の怒号を上げていた。
「やめろ……触るな!」
我慢できなかった。気持ち悪くて、悔しくて、恐ろしかった。嫌だ。嫌だ。
「嫌だ、離せ……! やめろっ、糞、このっ……!!――ッ!!」
男の手が、アキの股間を鷲掴んだ。汗ばんだ手のひら全体で萎えたままの竿を握り、そのまま乱暴に上下に扱き立てる。
さらに滑りが足りないとみるや、すかさず男は口中の唾液を溢れるほどアキの陰茎にまぶし、粘度の高いそれでもってグチュグチュとしごき始めた。
「ッ、あ、ぐ……っ!!」
痛みと恐怖と屈辱に、アキの悲鳴がくぐもって噛み締められる。
男は右手でアキの陰茎を弄りながら、左手でアキの乳首を摘み上げた。コリコリと指の腹でこすり、押し潰し、ついには唇を寄せて吸い上げる。
「ッ……! ぅ……!!」
ぞわ、と鳥肌が立ち、アキは咄嵯に自分の喉を締め上げた。
これ以上、無様な声など出したくなかった。
「んっ♡ んん、むぅ……♡アキ君の、乳首、コリコリして、おい…ひぃっ♡ 」
「ひ、っ!?」
男が舌を伸ばしてアキの左の乳頭を舐め上げ、強く吸った。生暖かい粘膜に包まれた先端がジンと痺れる。
「んふ、ん……っ♡」
じゅっ、ちゅっ、ちゅぷっ、ぢゅるるっ……
男は夢中になってアキの乳首をしゃぶりながら、片手でアキの陰部を激しく擦り続けた。
垂らされた男の薄汚い唾液と、生理的反応で染み出してきた先走りでぬめる亀頭の割れ目を、親指でぐりっと押し込まれ、アキの体がびくりとはねる。
敏感な箇所への刺激はアキにとって久しく忘れていた感覚で、それは否応なく彼を追い詰めていった。
――気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。気持ち悪いのに。
「ッ……ン…ッ、……は、ぁ」
吐瀉した汚れのこびりついたアキの唇から、吐息が漏れる。
切なさを帯びたその響きは、確かに快感のそれだった。
瓦解する何かに、アキの鼓動が加速度的に跳ね上がる。
男の体が再び前のめりになって、アキの耳たぶを歯先でかじり始めた。
濡れた男の舌がアキの耳殻を芋虫のように這い回り、蠱毒の呪文を注ぎ込んでいく。
「アキ君、アキ君……♡ 気持ち良いねぇ……大っきいおちんちん触られて、おっぱい触られて、気持ち良くなっちゃうね……ほぉら……俺の手の中でビクビク脈打ってる……♡ アキ君のおちんちん、手の中、いっぱいに膨らんで……♡」
「……う……ぅ、くゥ、グ……」
男の言葉通り、アキの性器は今にもはち切れそうなほど張り詰め、どくんどくんと熱く脈打っていた。
尿道口に溜まったカウパー液が溢れ出し、男の手を汚す。腰が震えて、下腹部の奥が疼く。
絶頂が近いことを察した男が、いっそう手の速度を上げた。
ずりずりと尻が何度もマットを擦り、激しく揺れる鎖が天井から甲高い悲鳴を振り落とす。
オイルランプの薄明かりの中、狂気の色に魅入られながら、アキは唐突にリフレインした若き師の声音を鼓膜の中でくゆらせた。
『なぜかおまえは、とかく―――その手の悪魔に魅入られやすい』
男の指が、カリ首の裏側をこすり上げるように何度も撫で回し、アキの視界には星が散る。
「最初だからね……♡ イかせてくださいって、おねだりしなくても、ゆるしてあげるからね♡」
親指が鈴口を割り開き、アキの背が弓なりにしなってマットから浮き上がった。
「ッ、ぁ……ッ!!」
声にならない悲鳴を上げて、アキは絶頂した。精管を駆け上がってきた熱い白濁が、勢いよく吐き出される。
「…ッ!! ひッ、――――……ッ!!」
全身が痙攣する。
脳髄が焼き切れるような快感にアキの意識がスパークする。
「んん……っ♡ ア、濃い、の……たくさん出た……♡」
うっとりと囁きながら、男はアキの射精中の陰茎をさらに扱き立て、痛みに近しいほどの強い快楽を与えてきた。
驚きと苦しさで、アキの腹がぐうっとへこむ。
「あッ……! ぅ、グ……!」
「我慢しない……ね? いい子……♡」
「ッ! や……ッ!」
残滓を絞り出すように根元から先端までを搾り上げられて、アキは再び透明な悲鳴をあげて達した。
二度の吐精を強制され、ぐったりと脱力しているアキの体を、男は満足げに息をつきながらまさぐっている。
饐えた臭いの精液を塗りたぐられ、欲情した男の視線に晒されている自分の体が、ひどく惨めなものに思えて、アキはきつく目を閉じた。
湿った匂いがしているのに。
ここは、雨の音が、遠かった。